下地理則の研究室
記述のポイント
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可能な音節の型(テンプレート):例えば(C)V(C)など。ただし,以下にあるように,語における位置で音節構造のパターンが変わる場合があるので,その場合は語頭・語中などと分けて記述すると良い。
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語頭の音節構造
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子音連続は可能か:いわゆる喉頭化とされる音声の音韻解釈(グロッタル音素+Cとするか,喉頭化子音音素とするか,など)に注意。九州方言の一部にあるように,語頭で拗音連続が見られる場合にも,その音韻解釈に注意(/hwyaa/ [ɸyaː]「ハエ」)。
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語頭という言い方が適切か,語根頭という言い方が適切か,注意(複合語まで考慮した場合に,どっちが適切かわかる)。
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どの音素(の組み合わせ)が立ちうるか:例えば,伊良部島方言では,合拗音/CwV/ (Cは子音,wは/w/,Vは母音)は単純語の語根頭に限って見られるが,その場合,Cが/k, g/のいずれかで,しかも母音が/a/に限られる。
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語中の音節構造
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子音連続は可能か:単純語内部について考えるか,形態素境界をまたぐ場合を考慮するかで大きく変わる場合がある。例えば,標準語では単純語内部ではC.Cに限られるが,形態素境界を跨ぐ場合,「北京っぽい」「北京って」「北京っ子」などのように,/N/+無声阻害音/CC/が生じうる。北京と後続形態素の間に,音韻語の境界を引く場合は,語末の構造を記述していることになるが,そうではない場合は,語中の音節構造の記述として,これらも考慮しなければならない。
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どの音素(の組み合わせ)が立ちうるか。よくある制限はpartial gemination(部分重子音)に限られるというもの。しかし,これも形態素境界をまたぐ語を郷里するかどうかで変わってくる可能性がある。
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その他,語中の音節構造の注意点:よくあるのは,語中音節のオンセットは必須という制限。これは,母音連続の音節の切れ目をどう解釈するかに関係してくる。例えば伊良部島方言では,/aai/「いいえ」のようなVVVの連続は,VV.Vと見る。すなわち,長母音の後に,例外的にオンセットなしの語中音節が生じると見る。
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語末の音節構造
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子音連続は可能か。また,どの音素(の組み合わせ)が立ちうるか。/N/に限られる方言が多いと思われるが,そうではない場合もある。なお,これは語末のC(と聞こえる音声)を,音韻的にコーダと見るか,母音の無声化によって生じるオンセットと見るかでも当然変わってくる。また,外破を伴わない閉鎖音なのか声門閉鎖なのか,という問題もある(例えば九州南部方言)。
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モーラ:オンセットがモーラを担わず,コーダは1モーラを担う,というパターンが一般的であろうと思われる(これによって,例えば標準語の上述の/pekiNkko/を,/pe.kiN.kko/とせず,/pe.kiNk.ko/とする解釈もありうるだろう)。しかし,方言によっては,オンセットの子音連続のうちの頭子音が1モーラを担う場合がある。伊良部島方言の/ffa/「子供」はCCVで,最初のCが1モーラを担う。これは連濁すると/vva/になるので,確かにオンセットを形成している点に注意。
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最小語制限(word minimality constraint)の有無と「語」のドメイン:西日本方言・琉球諸語に広く見られるが,この制限がアクセントなどの単位という意味での音韻語全体(例えば名詞+助詞)にかかるか,あるいは形態統語的な意味での語(助詞を含まない,前接名詞のみ)にかかるかは,方言によって変わる可能性があるので注意。例えば波照間方言では前者に2モーラ制限があり,伊良部島方言では後者に2モーラ制限がある。