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記述のポイント

 まず,自他で分ける。

 他動詞文の場合,「太郎(動作主)が花子(被動者)を殺した」など,動作主が被動者に影響を与えて状態変化させるような,典型的な他動詞文を考察する(上記のような例文は話者が抵抗を示す場合もあるが)。なお,類型論では,このような典型的な他動詞文の主語をA(gent)とし,目的語をP(atient)として略号化する慣習がある。この典型的な他動詞文の主語と目的語の語順や格表示の特徴を共有する,その他の他動詞文の主語・目的語もまたA,Pとして含める。日本語では,Aはガ格を取り,Pはヲ格をとり,またAがPに先行する語順が普通である。

 AとPの順序を考える上で,情報構造的な基準を使うことは一般的である。すなわち,Aを主題として,それ以外を題述とする,いわゆるトピックコメント構造における語順が,情報構造的にもっとも高頻度で出現し,その意味において「普通」の語順である,と想定する。ただ,日琉諸語の場合,トピックコメント構造の他動詞文はAが発話されないことが普通であるから,(A)PVのように一般化できるだろう((A)は文脈で理解される,発話されないA)。

 複他動詞文の場合,非派生の複他動詞,すなわち典型的には授受動詞を使って語順を提示する。授受動詞文は,主語以外に,受益者(R(ecipient))と対象(T(heme))を項にとる。他動詞文の場合と同様,トピックコメント構造(すなわち,RもTも動詞も含めた述部全体が新情報の情報構造)で基本語順が観察できるという前提に立って記述すれば良い。

​ 自動詞文の場合,その唯一項をSと略号化するのが類型論の慣習である。自動詞文は,どちらかと言えば動作主的な主語をとる自動詞文と,どちらかと言えば被動者的な主語をとる自動詞文に二分されるという特徴があり,これが方言・言語によっては明確にカテゴリー化(SA vs. SP)されることがある。これを自動詞分裂というが,自動詞分裂の分裂の様相が,格表示に出る場合と,語順の違いに出る場合がある。日琉諸語では,格表示に出るような方言がいくつか報告されているが,語順に明確な違いが出る方言は報告がない。これは,動詞が文末に来るという制限が強いという別の特徴に起因する(すなわち,SA+V vs. V+SPのような語順の違いが許されない)と思われる。しかし,語順に関する何らかの違い(例えば,SとVの間に何かを介在させる自由度など)が出る可能性はあり,調べる価値はある。

記事 #3

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