記述のポイント

ここでは,語彙名詞(すなわち非代名詞)の形態論的特徴,すなわち内部構造を示す。例えば標準語の語彙名詞は,代名詞と違って数の表示は義務的ではない(=数で屈折しない)。数接辞-tatiは,それをつけると意味が複数に限定されるが,つけなければそのカテゴリーに対してどちらにも解釈できる。

(1) 学生は{1人しか/3人しか}いない。

(2) 学生たちは{*1人しか/3人しか}いない。

 数接辞は,このように,語幹に足されることで,意味を連辞的(syntagmatic)に限定して行く。これは,単数(接辞なし)と複数(-tati)が範列的(paradigmatic)に対立し,接辞なしも単数という意味を積極的にもつ(=ゼロ接辞を持つ)代名詞の場合とおおきく異なる。よって,標準語の語彙名詞の構造は,数に関していえば,以下のように定式化できる。

(3) 語彙名詞:語幹(-数接辞)

義務的で範列的な対立をなす接辞類(屈折接辞)に対して,連辞的に足されて行くだけの,随意的な接辞類を派生接辞という。語彙名詞につく接辞は,数接辞の他にも待遇接辞(-san, -tjan, -kun, -donoなど)があるが,これも派生接辞である。数接辞と待遇接辞の連辞的関係を考えて,標準語の語彙名詞の大まかな構造は以下のようにまとめられる。

(4) 語彙名詞:語幹(-待遇接辞)(-数接辞)

 待遇接辞と数接辞の種類ごとの共起関係についての記述も必要である。例えば-donoは,数接辞と共起しないし,数接辞-raは-tjanに後続しにくい。   

接辞の種類と名詞のカテゴリー

語彙名詞の数接辞は一種類ではないことがある。例えば筑後久留米方言では,代名詞も語彙名詞も-donを使うが,語彙名詞はさらに-tatiも使う。琉球はさらに複雑で,方言バリエーションが大きい。このような,数接辞の形式を記述する際,代名詞と語彙名詞を一列に並べて,そのカテゴリー別に整理することが便利である。すなわち,有生性階層と呼ばれる階層である。

 

(5) 代名詞 - 固有名詞 - 親族(目上)- 親族(それ以外)- 人間普通名詞 - 動物名詞 - 無生名詞

 

 このうち,特に重要な区分は,呼称(2人称代名詞の代わりに使える固有名詞・目上親族名称・役職名称,例えば「太郎」「先生」「兄さん」など)と非呼称である。これによって,複数接辞の形式が変わったり,複数の意味解釈(純粋複数か近似複数かなど)が変わったりする可能性がある。例えば,南琉球宮古語伊良部島方言では,語彙名詞のうち呼称名詞は複数接辞-ta(近似複数解釈)を,それ以外の一般名詞は-mmi(純粋複数解釈)を取る。また,このカテゴリー分けが他の文法現象の説明において有効である場合もある。例えば,九州方言や琉球諸語では,主格助詞ガ系とノ系の選択にこのカテゴリー分けが効く方言が多い(例:伊良部島方言では,大まかに言って,代名詞を含む呼称可能名詞は=gaを,それ以外は=nuを取る)。

調査票

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