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記述のポイント

 ここでは,動詞述語文の格体系を記述する。

  • 典型的な他動詞文の格フレーム。

  • 自動詞文の格フレーム(すなわち,主語の格表示)。

  • 上記を基にした,主要3項の格配列(alignment)。

  • ​複他動詞文の格フレーム。

  • 格フレームに(従って格配列に)影響を与える要因としてどういうものがあるか。

    • 他動性

    • 主語の有生性

    • 目的語の有生性

    • 相対的有生性(AとOの有生性の相対的関係:A > O, A = O, A < O)

    • 述語の意味(行為vs. 出来事:つまり,動作主性)

    • 特定性

    • 修飾要素の「長さ」(連体修飾節 vs. 連体詞など)

    • 焦点化

    • 節タイプ

    • 語順(特に目的語の格標示) 

  • ​周辺項(付加詞)の格標示。

典型的な他動詞文の格フレーム

 主要3項の格体系を記述する際,まず典型的な他動詞文を観察することから始める。「太郎(動作主)が花子(被動者)を殺した」など,動作主が被動者に影響を与えて状態変化させるような文である。(上記のような例文は話者が抵抗を示す場合もあるが)。

 類型論では,このような典型的な他動詞文の主語をA(gent)とし,目的語をP(atient)として略号化する慣習がある。この典型的な他動詞文の主語と目的語の語順や格表示の特徴を共有する,その他の他動詞文の主語・目的語もまたA,Pとして含める。標準語では,Aはガ格を取り,Pはヲ格をとる。この格フレームからそれる場合(「太郎に花子が殴れない(はずがない)」の【ニ-ガ】フレームなど)は,他動性など,他動詞文らしさの度合いの違いが関係している。 

  •  

自動詞文の格フレーム

 自動詞文の場合,その唯一項をSと略号化するのが類型論の慣習である。自動詞文は,どちらかと言えば動作主的な主語をとる自動詞文(「太郎が踊った」「太郎が歩いた」など)と,どちらかと言えば被動者的な主語をとる自動詞文(「太郎が死んだ」「太郎が酔った」「時計が壊れた」など)に二分されるという特徴がある。この意味的な違い(動作主的かどうかの違い)がSの格表示に反映する場合,自動詞分裂を有する,という。

S, A, Pの格配列

  • ​Sの格表示は1種類

    • Sが常にAと同じ標示になり,Pだけ別の格を取る(主格対格型)

    • Sが常にPと同じ標示になり,Aだけ別の格を取る(能格絶対格型)

    • S, A, P全てハダカ(格表示なし)で,対立が見られない(中立型)

    • S, A, P全て格表示が異なる(三立型)

  • Sのうち,動作主的なSと非動作主的なSとで格表示が分裂する(分裂自動詞型)

与格

  • 与格は場所ないし(比喩的な場所すなわち感情主体など)志向性があり,方向格は方向志向性がある。方言によってはこれら2つの格形式がオーバーラップする意味領域もある。

  • 経験者構文(「太郎は困っている」「太郎にはそれは難しい」など)が与格を取る方言は多いが,与格と(共時的に)異なる独自の格を取る方言もある(北関東方言など)。

  • 形容詞の経験者構文で,刺激項(「太郎は雷が怖い」)が与格を取る方言もある(九州方言など)。

  • 使役文の動作主(被使役者)の格表示が与格と対格で交替する場合がある。

調査票

  • 周辺項まで含めた,格助詞の形式の拾い出しに便利な調査票はこちらから

  • 主語の格表示に関与する要因をチェックできる調査票はこちらから

  • 直接目的語の格表示に関与する要因をチェックできる調査票はこちらから

  • ​与格・方向格の使い分け・張り合い関係を調べるために便利な調査票はこちらから

「方言文法ガイドブック」(電子版はこちら)の小林隆氏の論考は,方言研究の知見を踏まえた格に関する解説であり,特に与格・方向格の使い分けをチェックできる調査票もついている。

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