教員(下地理則)が,2020年8月16日(日)〜17日(月)に開催される下記の共同研究発表会で研究発表を行います。
東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催 第6回ワークショップ
2020年8月16日(日)〜 8月17日(月)
会場:Google Meetによる遠隔会議形式(参加用URLは参加申し込みされた方に配布)
参加申し込みは、こちらから
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8月17日11:30-12:00
下地理則(九州大学)
「琉球諸語における双数(dual):類型と歴史」
本発表では,琉球諸語における代名詞の人称と数に関する含意普遍の提示と,通時変化のメカニズムに関する試論を提示する。日本語研究でよく知られた事実として,琉球諸語には1人称複数に除外と包括の区別がある。さらに,最近の記述研究の進展により,数に関して,単数-複数の対立だけでなく単数-双数-複数の対立を持つ方言の存在も明らかになっている。この,人称の側面(除外・包括の区別)と数の側面(双数の有無)という変数に着目しながら,本発表では以下の含意普遍を示す。 (1) 双数が2人称に見られる方言は,1人称複数における除外・包括の区別がない。 本発表の目的は,この共時的な含意普遍が意味するものを,通時的な観点から解釈することである。いくつかの方言で実証されるように,除外・包括の区別を持つ方言の中には,1人称の,しかも包括に限り,双数と思しき形式がある(例:伊良部方言のba-ftaa (1-DU.INCL) 「私たち(=私とあなた)」)。これは単に双数というより,「1+2人称」とでも言えるもので,本発表では双数の「萌芽の」形式,原双数(proto-dual)と呼ぶ。名前が示すように,これが琉球諸語の双数形式の発達の起源にあるというのが本発表の主張である。 (2) 提案する通時的発達プロセス (a) 琉球祖語には,除外と包括の区別があった。さらに,1人称包括双数,すなわちproto-dualの形式*wagaFutari(「(直訳)我が2人」;伊良部方言のba-ftaaや与論方言のwa-ttaiなどに対応)があった。 (b) 方言によって,除外と包括の区別が喪失した(与論方言などほとんどの北琉球語)。 (c) そのような方言では,proto-dualは,結果的に,聞き手を含むか否かに関係のない1人称双数形式「私たち」になった。 (d) これにより,語根が人称を,接辞が双数を表すという分析が定着する。与論方言のwa-ttaiを例にすれば,wa-が1人称を,-(t)taiが双数を表すということである。 (e) (d)の段階を経て,今や双数の接辞として人称から切り離された形式が2人称,3人称へと波及していった(与論:uree-tai (2-DU), ari-tai (3-DU))。 このシナリオによって,(1)で見た「2人称以上に双数がある方言(=(2e)の段階にある方言)は1人称複数の除外・包括の区別を欠く(=(2b)の段階を経ている)」という含意普遍が説明される。
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