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記述のポイント

 動詞形態論の記述は主に,屈折形態論派生形態論にわけられる。端的に言って,屈折形態論は範列関係にある体系を記述し,派生形態論では連辞関係にある構造を記述する,と言える。

 屈折形態論では,動詞の語幹と義務的な文法カテゴリー(テンス,きれ続きなど)の接辞の範列的な体系を記述する。すなわち,一般に活用と言われる分野を指す。一方,派生形態論では,語根に非義務的な接辞(ヴォイス,否定など)を連辞的に加えて,語幹を拡張して意味を限定していくプロセスを記述する。

 5章全体で,この2つの形態論的記述を行うが,このセクション(5.1節)では,屈折形態論を記述する上で要となる,語幹のクラスの導入を行う。標準語を始め,ほとんどの方言には,母音語幹(一段,弱変化)と子音語幹(五段,強変化)のクラス,すなわち活用クラスが設定でき,形態音韻的交替や接辞の選択など多くの屈折形態論的交替が,このクラスに依存している。

 

母音語幹動詞と子音語幹動詞

 母音語幹動詞は,例えば九州方言のように二段活用を持つ方言もあり,南琉球宮古語のように,完全に一段化している方言もある。歴史的な観点から,二段活用動詞のリストを作成し,その活用をチェックする必要がある。子音語幹動詞のうち,テ形やタ形で起こる音便,/w/を語幹末に持つ場合の語幹の基底形の解釈など,形態音韻交替に関する記述は網羅的に行っておく。

 母音語幹動詞と子音語幹動詞とで接辞が異なる場合(例:標準語の命令形接辞)も当然あるはずで,その記述も漏らさず行う。

​ これらの記述が済んだ段階で,変格活用や不規則動詞,存在動詞,コピュラ動詞,補助動詞などの活用パターンを,通常の母音語幹動詞・子音語幹動詞のパターンに言及しながら記述すると良い。

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