記述のポイント

 ここでは,派生形態論を扱う。すなわち,動詞から屈折接辞を取り去った語幹3.2節)の内部構造を記述する。語幹の中核を占める部分を「語幹核」と呼ぶと,語幹核には,単独の語根のほか,複合語幹や,他品詞の語根から派生された動詞語幹も入る。以下は伊良部島方言の例であり,語幹を[ ]で,語幹核を下線で示している。

(1) [ibi-smi-rai-t]-tar

      植える-CAUS-PASS-NEG-PST

    「植えさせられなかった」(語幹核は単独の動詞語根ibi-「植える」)

(2) [ibi+kai-smi-rai-t]-tar

      植える+かえる-CAUS-PASS-NEG-PST

  「植え替えさせられなかった」(語幹核は複合語幹ibi+kai-「植え替え(る)」)

(3) [ssu-kar-as-ai-t]-tar

    白い-VLZ-CAUS-PASS-NEG-PST
  「白くさせられなかった」(語幹核はssu-kar-で,形容詞語根ssu-を動詞化したもの)

 複合語幹については,語幹の内部構造を扱うこのセクションで記述しても良いが,補助動詞構文などと一括して,すなわち動詞語根を2つ含む構造体として,7章(述語の構造)で扱うのも一案である(このサイトの執筆項目リストではそのように章立てを提案している)。

 日琉諸語では一般に,語幹核に使役接辞,受動接辞,待遇接辞,極性接辞などが,だいたいこの順序で接続可能で,こうして語幹が形成されていく。このような連辞関係を中心に,構造的な側面を記述するのがこのセクションの中心になる。個別の接辞の機能の詳細は,12章の構文論で記述する。

 

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